小生、事件に巻き込まれる。

帰国した。日本に帰国し、ドイツに帰国した。もちろん自分の国という意味では日本だが、今や仕事の中心はドイツにあるわけで、こちらも帰国と言えば帰国である。蒸し暑く肌にべっとりとまとわりつかれるような日本の気候にも懐かしさを感じたし、さらっと18度で快適なドイツの気候もそれなりに懐かしさを感じるようになってきた。1ヶ月とはそういう時間である。

さて、ドイツ生活2ndピリオドの始まりである。いろいろとあって日本に帰ることにしたのだが、精神的に疲れていたことも確かにあった。1週間たらずだが、日本に戻った事はとてもいい回復になった。初めのワクワク感が戻ってきたのを感じるし、精神的な余裕はストレスを楽しさに変えてくれる。まぁ、疲れたら無理せず帰ろうというのが僕の結論である。日本人の悪いところは、「無理したやつ、すごい」的な思考になりがちなところだと思うのだが、僕は何より僕自身が生きることを楽しんでいて、僕自身も僕の周りにいる大切なヒトも幸せにできるような生き方が理想だと思っているので、無理するのは全くの間違いである。休むときは休むし、仕事へのワクワクが戻ってきてから最高のパフォーマンスで仕事をする。最も重要なのは、想像の範疇を超える発想がいかに思いつくか、仕事の効率がどれだけ高いかであって、別に仕事時間がどれだけ長いかやどれだけ無理しているかが重要なわけではない。その点、ヨーロッパはそういう意識への理解が高いところも面白い。例えば、僕が日本に1週間帰りたいと思っていて、初め「前のラボで、やりたいことがあるから」と堅く言っていたら僕のボスは少し嫌な顔をしていたが、そのあとで「ぶっちゃけ、家族とか友達とかに会いたいんだー」と言ったら満面の笑顔で、「そういうことかー!なら、すぐ帰っちゃえよ!」と。プライベートの大切さやオフの重要性をしっかりと理解してくれる。逆に、彼らもまたプライベートを大切にするので、そこまで仕事をしないわけだから、こちらの意識も変える必要があるのだが…。(ちなみにうちのテクニシャンは現在、「引っ越しするから」という理由で3週間のオフ中。)

実は日本に帰るのにも意外なポイントがある。航空券がそこまで高くないのである。成田→フランクフルト→成田だと正規に買うと25〜40万程度で、格安チケットでだいたい12〜15万くらいに落ちる。興味深いことに、これがフランクフルト→成田→フランクフルトだと、更に7〜10万程度まで落ちるのである。日本発の航空券は高い。なので、何回も往復する場合は、初めの航空券の帰り分は捨ててしまって、ヨーロッパ発で往復分を買い続けるのが圧倒的に安くなるのである。

さて、今日の午前はメダカとゼブラのブリーチングをした。ブリーチとは漂白剤のハイターを使って、卵の表面に付着しているもろもろの生物を殺す作業である。ヨーロッパ最大のストックセンターとして機能しているKITでは、持ち込む魚が病原菌やらを持ち込んでいると大変なことになるので(他のラボに病原菌を配ってしまうことになるので)、センターの中に魚を入れるには何段階ものステップを経る必要がある。まず、EU外から送られてくる魚については、政府や研究所が事前に発行したPermission Letterの無い生体サンプルは全て廃棄される。持ち込まれた卵についても、ブリーチをした上でFIsh houseの中のRoom1という部屋にしか持ち込む事はできず、その魚達が成体になった上で、それらから採卵した卵をFish house専門のテクニシャンが再度ブリーチして、やっとFish houseの他の部屋に持ち込むことができる。KITにはFish houseが3つあるが、安全のために全て独立に動いており、その間の移動ですらもこのステップを取る必要がある。ストックセンターの魅力として充実した飼育設備やラインが整っている一方で、このような面倒くささも付きまとっている。

さらにこの面倒くささに加えて、Fish houseには言語の問題がある。Fish houseのスタッフは全く英語が分からないのである。ドイツの中でもカールスルーエは田舎町であることも原因の一つであるが、街中だけではなく、研究所の食堂やFish houseの飼育員もドイツ語のみ。今日は通訳をラボの学部生のクリスティーナに頼んだのだが、これでもなかなか大変。さすがにちょっとドイツ語を学ぶ必要を感じた。飼育員の方々の言葉というのは、僕の経験的にはものすごく重要な意味を持っていて、そのことに気付いている研究者は意外と少ない。僕が行動学という学問をやっていることも理由の一つなのであろうが、全ての研究の種は「観察」にこそあって、僕らよりも動物に触れる時間が長い彼らの意見は極めて本質的な問題解決の種であることがありうると感じている。

とまぁ、ここまでの文章はバーでビールを飲みながら書いていたわけなのだが、そのあとで事件は起こった。今日は終バスを乗り過ごしてしまい別のルートで帰った上に、最寄り駅まで行けなかったので、途中の駅で降りて「2ndピリオドの始まりだ!」とばかりに目の前の新しいビアバーに入った。生演奏ありで、隣では誕生日会有りのなかなかいい雰囲気のバー。日記をダラダラと書きながら飲んでいたら、周りの人達がガンガン話しかけてくる。そのなかのカップルと「ドイツでの生ハム事情」について話し込んでいて、わからないドイツ語を電子辞書で翻訳とかをしていたのだが、あるとき突然ロシア人の陽気なやつが隣に座ってきた。よくわからない英語でウオッカはうまいだの、もっと強い酒を飲めだのいろいろ言ってきて変なヤツだなと思って、軽くスルーしていたのだが、ふっと数分後に気付くと目の前にあった僕の電子辞書が無い。気付いた時には、周りの人達もいろいろなものを取られいて、店も勘定を払わずに大きなビールグラスを取られたとのこと。ドイツの田舎街の小さなバーでの大規模盗難事件発生である。

そして、最も高額な電子辞書を取られた僕が、ドイツ語も全く話せないのに代表である。そこからは警察が来て、いろいろ調書を取られたりしていたのだが、まわりのドイツ人のヒト達が全力で助けてくれる。しばしば感じることではあるが、ドイツ人は日本人にとても優しい。「俺らのヤーパンが、せっかく来てくれたのに嫌な思いをしている!」とばかりに、店の人達みんなが協力してくれた。高額とはいえ、大した情報も入っていないし、大して使えもしなかった電子辞書だが、なんだかこういう優しさに触れられるという意味では全力の活躍をしたんじゃないかなと思えてきた(1ヶ月という短い命だったが…)。まぁパソコンだったらこんな悠長な事態ではないだろうが、次からはもう少し気をつけようと思った夜だった。

というわけで、数段落前に書いた、ドイツ語習得は開始2時間ほどで藻くずと消えた。

小生、はからずも東大農学部バーに思いを馳せる。

Education is what remains after one has forgotten what one has learned in school.
~ Albert Einstein

教育とは、学校で習ったすべてのことを忘れてしまった後に、自分の中に残るものをいう
アルバート・アインシュタイン

土日は両日ともに、午後はカフェ。二日間でコーヒー10杯とビール5杯を消費しながら、ひたすらアイディアを練り続ける。自画自賛で申し訳ないが、仮にうまくいったら最高と言える至高のアイディア達である。こういうのは、大抵どこかで詰まってうまくいかないのだが、まずもって考えるのが楽しいし、うまくいったら尚更楽しいので、とりあえず考えられるだけ考え、一人で変態的にニヤニヤしながらメモ帳へと書いていく。書いては崩し、書いては崩しをしているにつれ、アイディアは練られていくものだ。僕はアイディアを考えるときに、「客観的に考えた時にどれだけレアなアイディアか(オリジナリティ)」「実現までかかる時間と費用(コスト)」「最も成功したときと最も失敗したときの差分がどの程度あるか(リスク)」の3点を評価基準にして進めるのだが、これもシミュレーションゲームのようで楽しい限りである。

このアイディアメモ帳は、一年に一度更新している。SFN(北米神経学会)に参加する際に、毎年目をつけた大学or研究所を狙って、絨毯爆撃的にディスカッションとセミナー講演を行っているのだが、その帰りに1冊大学ノートを買ってくるようにしているからだ。大抵、どの大学も厚さ1〜2センチくらいで大学のロゴの入った黒い装丁のノートが生協的な売店に売られていて、毎年、新しいアイディアでその1冊を毎年埋め尽くす事を目標にしている。昔のアイディアノートをたまに見返すとなかなか面白くて、たまに紙の隅っこに走り書きで「これ、意外とつまらなくない?」とか「Excellent!!!」などと書いてあって、数年前の苦悩している自分を思い出し、これまたニヤニヤできるのである。

このように「今はまだ早いとしても、いつか使えうるアイディア」を頭の床に並べておくことは極めて重要だと僕は考えている。僕の母親も研究者なのだが、昔から縦10cm横15cmくらいの紙にアイディアを書くヒトで、論文を書く際には、文字通りうちの床にその紙を並べ、うんうん頭を傾げながら、順番を変え、ストーリーの推敲をしていたものだ。確かにこの方法は、ふつうならば結びつきづらい2点のアイディアを有機的に結びつけることと、僕の母親が我が家の床を本とゴミまみれにしても片付けをしないための言い訳には極めて効果的であった。理想的にはそれが頭の中の床でできる事であり、そのためにはいつも新しい事を考えていることが重要であるのは言うまでもない。

日本の大学院生の多くは、あまりこの時間を取らない事が大きな問題の一つであると思う。そもそも、考えたアイディアを議論し、improveして、実際に許可を与えてくれる様々な意味で有能な上司が必要なわけだが(僕はそういう意味で大学院時代には極めて恵まれていたと言える)、そうでなくとも「仕事量をこなす事」が「いいアイディアを形にすること」よりもプライオリティの上位に来ている日本の研究者は多い。極論になるが、僕はLoss of functionとGain of functionの生物学は、一生のうちに一回は経験した方がいいと思うが、それ以上そこにいても苦しいと思うのだ。「AならばB」を証明する世界は「仕事量」を要求する一方、ある程度fineなアウトラインを形作るデータさえ出れば、あとは誰にでも出うる発想・出来る実験に落ち込んでしまい、そこに存在するオリジナリティのウエイトは少ない(ただ、ハイインパクトなジャーナルはこれを求めるというジレンマがあるわけだが…)。かくいう僕も学部生の頃にはA→Bの世界にいて、鼻息荒く実験し、鼻息荒くキレイなデータを出し、鼻息荒く「どうだ!」と発表会でプレゼンしていたわけだが、そんな僕を「A→Bはわかりましたが、ではそのAは何の因子が制御しているのですか?さらにその因子は何が制御しているんですか?どこまで、この繰り返しを詰めれば君は満足なんですか?」という、未だ尚、こころのなかに燻っている質問でピノキオの鼻をバッサリと切断して下さったのが、僕の大学院時代の指導教授その人であった。

この発想のネルネルネールネに重要なのは「他人との議論」と「自分との議論」のバランスにあると感じている。一人で考えていても煮詰まるだけであるし、一人で考える時間がなければ他人の思考の傀儡である。この両方を行うことができる場所は、僕にとっては「喫茶店」と「バー」である。

本郷三丁目にはスタバがあり、僕の実験計画のほとんどはあの窓際の席で練られたものだ。ごくごく最近、日本のスタバもFree wifiを導入したそうで、僕はこの企画を非常に評価している。無理は承知で言っているが、東大は本郷三丁目の指定喫茶店におけるFree wifi導入、電源設備の増強、大学と同様の論文ダウンロード可能環境を援助すれば、大学としての効率は極めて上昇すると思う。喫茶店の仕事環境は、海外スタンダードと比較して日本はまだ低い。

さて一方で、この数年間の中の東大が行った変革の中で、最も素晴らしく、最も僕に影響を与え、最も僕の研究を良い方向に導いたのは、間違いなく「農学部バーS」の設立であったと確信している。2年ほど前に東大が突然、銀座のバーを学内に誘致したのである。自分との議論が足りないかもしれないと感じる院生に僕が確実にお勧めしたいのは、とりあえず一人で農学部バーに行って、ウイスキーを飲みながらただただ今やってる事について考え続けることである。おそらく、思った以上に自分と会話する時間が取れ、思った以上に自分が自分を知らない事に気付ける一瞬だと思う。ちなみに正直に言うと、僕は大抵飲み過ぎて、何を考えていたのか覚えていないのだけど、その中でも思い出せることが一番いいアイディアであり、このようなアインシュタイン的アプローチも可能なのが、農学部バーである。ちなみに、海外では学内にビアパブなどがあるのは一般的であり、そこで多くのディスカッションが行われているが、日本ではこれまであまりこのような施設は大学組織にはなかった。「効果」よりも「建前」を重視する日本らしい点だとも思うが、これはフランクなディスカッションの場を提供するという意味においても、東大が他の大学に先駆けて行った極めて先見性の高い戦略であったとこころから思う。

本日の徒然なる日記の結論は、ここに置こうと思う。若人よ、農学部バーへ行け。

小生、活気あるセミナーに感動す。

ハイデルベルグ大のJochenに招待されたので、これまでの研究のトークを行ってきた。トークといっても、彼のラボでインフォーマルトークなので、そこまでストレスに感じることはない。朝、Fish houseの前でRaviと待ち合わせて、彼の車でハイデルベルクへ。カールスルーエハイデルベルクの間はおよそ60kmほどで、「30分もかからないよー」というRaviの言葉に「ん?」と思いながらも乗車。ものの数分で理由が分かった。かの有名な「アウトバーン」である。日本の高速道路ではデフォルト100km/時で、しばしば速度制限区間で80km/時であるが、アウトバーンはデフォルトで速度制限が無く、速度制限区間120km/時。Raviの車を含め、速度制限区間の終わりにどの車も急加速し180km/時ほどになり、更にその隣をしばしば恐ろしい轟音を立てたスポーツカーがヒューンと駆け抜けて行く。ここはF1レースか、と。Raviが笑顔で「今度来る時は、うちの大きい方の車で来るから230km/hくらいでいけるぜ!」というので、丁重にお断りしておいた。

ハイデルベルクのラボセミナーはとても興奮する内容で質疑の活気も素晴らしい。ここに書ける範囲で日本のラボにも応用できるなと思う興味深い特徴を書くとしよう。まず、「研究者以外のスタッフも集まる時間が用意されている」こと。僕自身が経験した事が有るラボセミナーの数も限られているが、日本では秘書さんや飼育スタッフがラボセミナーに参加することは珍しい。彼のラボでは初めに10分か15分ほどスタッフ全員が集まる時間を用意していて、そこで全ての事について話し合っていた。問題点を挙げるだけではなく、実験動物の健康状態などの「ちょっと気付いた事」を周知する場が与えられているのは極めて効率的だと感じた(この15分間が終わると、研究者以外は退場する)。次に「くじ引き」。前週にAさんが行った仕事セミナーの内容について、Jochenが引いたクジに当たったBさんが数分で再度説明を行い、最後にAさんが、Bさんの説明が適当であったか、1週間でどう進展したかを少しコメントするというもの。ゲーム性があって面白いのと、これがあるので院生も必死にポスドクやボスのガチトークにかじりついて聞いている。最後に「休憩が多いこと」。15分か30分のプレゼンが終わるたびに「フレッシュエアーを入れよう!」とJochenが言い、空気交換と2〜3分のコーヒーブレイク。セミナー中にはまんなかのテーブルに貸しパンやお菓子が置いてある。リラックスと緊張感のバランスが絶妙だと感じた。

今日のチーズはBonifaz。クリームチーズの中に、グリーンペッパー、ガーリック、バジリコ、ディールを入れ、表面を白かびで覆ったチーズだそうだ。初め、ガーリックの味に戸惑ったが、慣れるとなかなか美味しい。単品でもいけるし、チーズのわりにビールにも合いそうなおつまみ味である。100gで130円。もう一つはBelle Blanche。ハードだが独特の臭みが最後に抜けていって美味い。ヤギとかその辺の動物の乳の味がするが、どうなのだろう。ワインは今週は赤攻めでCour Du Roy A.C. F-BordeauxとChateau Grand Sabo F-Corbieres。前者は「おー、コート・ド・ニュイだー」と思って購入。正直、ワインはほぼ素人なので分かった単語が入ってるワインがあると、つい手が出てしまう。特にコート・ド・ニュイは、ロマネコンティから始まって、ワインの村名やエリアを勉強した直後くらいに知った地名だったので尚更。500円という価格もあってか、家でさくさく飲むにしてはとても飲みやすいし、チーズとも合わせやすい。先週から引き続き、夕御飯はKoffiersでハンバーガー。ハンバーガーといっても、ステーキがパンに挟まれているようなものなのだが。

小生、実験に苦しむ。

月曜日。昨日は夜9時くらいには寝てしまったので、3時過ぎに目が覚める。そのままラボにいく準備を進める。隣のラボのテクニシャンのクリスティンが月曜日朝7時から今僕のやりたい実験を行っているので、今日は見せて貰おうと約束していたのだ。始バスに乗ろうと早くに出たらサーチンに遭遇。こいつもなかなか朝が早い。

朝御飯はカンティーナで買って、ハンバーガー!土日に軽いものばかり食べていたので、朝からハンバーガーが美味しい。土日で回復すると、月曜からのドイツ生活がまた楽しくなる。

午前、初めての電気泳動。ゲルの作り方も違うし、電源もWesternのものと同じものを使っていて、何もかもが違う。バンドがきれいに予想長に出た瞬間の感動は、もはや4年生の頃に戻ったような気分である。博士の院生のサーチンに全てを習うポスドクであります。

午前はちょろっとスカイプディスカッションを三件こなして、こっちでのリアルディスカッション1件。今日のディスカッションはなかなか意義深くて、こちらのプロジェクトにもろに関わる人物だったので僕も興奮したが、いくつか問題点も見えてきつつある。予算不足がかなり大きい問題だが、まずは目の前にあるものだけでどうにかしないといけないので、足りない分はアイディアでカバーしないと。

スカイプディスカッションしていたら、昼ご飯を食べ逃したので、ショップでバーガーを買う。食むバーガー。肉は本当に美味い国です。

午後はくだらない実験をするも、前に進まない。PCRからの電気泳動PCR purification→TA cloning→トランスフォーメーションという4年生ですら出来そうなプロセスだが、これすらも困難が。TA cloningキットが前ラボのp-GEM TシリーズではなくTOPOがメインであるのも、大腸菌がDH5aではくTOP10なのも良しだが、大腸菌巻く時にガラス棒が無いのにはびっくり。直径3mmくらいのガラス玉です。これをコロコロ転がします。もう、常識が全然通じないわけです。

というわけで、こんな不明な事件の連続で無駄に時間がかかってしまい、KITシャトルの終バスを逃す。195の民間バスでLeopold st.まで帰って、S11トラムに乗り換え。普段ならタダで帰れるルートに5ユーロもかかってしまう。こちらも終バスのはずだが、お金がかかるだけあってガラガラ。さすがにそろそろ自転車が欲しいところ。後ろの時間に縛られながら実験するのは大嫌い。

S11をMubergar Tor.で降りずにEuropeplazeまで。疲れた時の一人でビールアカデミーであります。Fassbier(要するに樽生)のPaulaner Hefeがお気に入りでいつも一杯目はこれ。二杯目は、今日は初めてFlaschenbier(瓶ビール)に浮気して、Rothaus Weizenを。さっきまで使っていたというのがあるかもしれないのだが、明確にLB培地のフレーバーがするビール。

小生、ドイツで蕎麦を食す。

ドイツ何日目制はひしひしと僕の心に静かなプレッシャーをかけるので、やめることにした書きたい時にかけるようにしよう。

土日はもう家にいてゆっくりする事が一番の回復になってきた。ドイツに来る前には、毎週末はいろいろな所に旅しようと思っていたが、これはなかなかしんどい。体力、精神力的にもう少しドイツに慣れてきたら出来るかもしれないが、正直、まだその余裕が無い。サーチンに言われたようにもし旅行をするならば、少し早くにチケットをとる事によって安くなるので、最低月曜日には決めたいところだが、自分の週末の体調が分からないだけにそこに踏み込むのもなかなか難しいところだ。

週末はダラダラと家で論文を書きながら、日本食を食べるという生活がこころを回復させるということが分かってきた。というわけで、先週に引き続きアジアンストアで日本食の購入である。僕は大の蕎麦好きなので、蕎麦を見るやいなや購入を決定。麺つゆ、ソウメン、そして、ワサビを購入しいい気分で帰宅。ワサビは、こちらではWASABIとかかれていて、なかなかどうして格好良い。蕎麦を茹でること4分、ドイツの冷たい水でしめて、つるりと一杯。自分が日本人だと実感する瞬間である。

昼過ぎ、雨が降っていて、なおさら外出する気分にならない。雷まで鳴ってきて億劫さマックスなわけだが、明日には家賃を払いたいので銀行を探しに外に出る事にした。うちの目の前がバンクなので言ってみたが、ATMしか使えない。これは海外送金が無駄にかかるので、断念。ご飯だけ買って帰ることにした。

というわけで、昼夜兼のカバブ料理であります。

ちなみに、土日のお酒は、先日のフランスの赤ワインは空いてしまったので、もう一本の方の赤を開けつつチーズに興じることに。

ドイツ14日目〜小生、日本とドイツの大学組織の差を体感する〜

朝。快晴。やや肌寒い。街行くヒトには未だ長袖もチラホラ。

今朝は街でイワシのマリネサンド的なものを食べる。こちらに来てから初めての生魚。日本ほどではないが、まともに美味しい。昼にキャサリンに聞いたら、ドイツは鮮魚の流通は結構良いそうで、北海で取れた魚が夜の間に南の方に来ているから、こうして街で生で出している魚はどれも鮮度が良いそうだ。なるほど。

午前、仕事をしていたら、サーチンが「アニバーサリーだ!てる行こうぜっ!」と。なんじゃなんじゃ、アニバーサリーとはと思っていたら、どうやら半年に一回、KITの中の僕のいるITG(毒物遺伝学研究所)の集会があって、研究者だけでなく、スタッフ、テクニシャン、事務、清掃員までも一同に集まる集会があるのである。研究所のなかでの危険物取り扱いについての講習が無く研究がスタートしたと思ったら、どうやらこのアニバーサリーがそれにあたるようで出席を取られ、簡単な放射線のレクチャーを受けた。ちなみに、本日のお題は「フクシマ」でした…。

そのあとは、ディレクターのUweのお話。ITGセクションの新しい建物がもう一つできるという事と、「新しいディレクターとして、Steffenを就任させようと思うがどうか」というものだった。これがなかなか興味深い。一応、選挙の形態を取らないといけないので、彼を選んだ経緯や彼がどのような利点を我々にもたらしうるかの説明があり、その後Steffen退場。その後はinternalな質疑が行われる。多くはPI達からUweに対して行われるが、例えば「今後のITGとしての方向性について変化はあるか(Steffenはケミストなので)」という質問が浴びせられる。日本における学科の専攻長は持ち回りの名誉職的なものだが、こちらでは彼の意見が研究所全体に強く反映されるので、周りのPI達も必死である。「レヴューなどについて変化はあるか」なども含めて、日本ならば陰で行われそうな討論はポスドク、博士、修士、事務員の前で公然と議論される。その後、挙手で、賛成と反対の票が数えられる。ここもまた不思議でほとんどの人間が賛成に手を挙げる中、僕の真横に座っていたヒトが突然反対に挙手。「なんで?彼の事嫌いなの?」と聞くと、「いや、そうではないが、僕は彼の事を良く知らないし、Uweの説明は不十分だったから未確認な部分が多すぎる、君はなんで賛成なんだい?」と。日本における「長いものに巻かれろ精神」は無く、全員に意見が求められる。

さらに、その後は博士の院生会長の選挙。東大の僕のいた学科の院生会長は「飲み会係」と「セミナー係」的なものなので、そんなもんかと思っていたら、とんでもない。こちらでは院生会長はPI meeting(要するに教授会)に出席して、発言権が与えられているのだそうだ。日本では博士は単なる学生であるが、こちらでは人数が少ない事もあってか、きちんと彼らの意見を抽出し、反映させる場が与えられているのも興味深い。

昼ご飯は、ピザ。またサーチンの「今日はこれで決まりだぜっ!」についつい乗ってしまったのだが、今度は美味しかった。ただね、ものすっごい量が多いのです。食べきれず。ちなみに、KITはサラダバーも充実していて、野菜不足の場合には充分ミネラルを取れるように用意されている。

毎日、昼ご飯を食べている生協の2階食堂は周囲が全て緑に囲まれていて、開放感もあり、なかなか落ち着ける場所だ。

午後は実験。先日から何回も書いているが、何も分からない。試薬や機械やアイスボックスの場所、機械の使い方から始まり、ドイツのルール、KITのルールまで全てが分からない。例えば、P200とP20は日本では同じチップだったのだが、ドイツでは別れている等、様々な困難が一つ一つの実験を阻む。僕は4年生からマスターに上がる時にラボを変えたのだが、それとは意味が違う。さすがにポスドクともなると、基本的な実験は「全て出来る」わけだが、本当に「全くできなくなる」のである。このストレスはかなり激しい。とりあえず、今日は基本の基本、PCRを学んだ。

PCRの試薬もベースで動いているのはExTaqでもKODでもなく、FermentasのDream Taq。これまで聞いた事も無かったが、まずバッファーが緑色。PCR反応を阻害しないLoading Dyeだそうで、反応後そのまま電気泳動が可能とのこと。なるほど。僕はいちいち発見の連続なのだが、そのリアクションを楽しんでいるサーチンが、僕が何かを新発見した時の独り言を真似し始めた。「そーなんだー」と「へえー」と「なるほど」が彼のお気に入り。

ノートも面白い。学生は各紙に全てカーボンシートが張られてるプロトコルを使っている。出て行く時には、全てサクサク抜いて行けば、プロトコルが2冊になる仕組み。ちなみに、僕のプロトコルは電子自炊の結果pdfファイルとなっているので、全世界に簡便に持ち歩ける。

夜は、昨日、ハンバーガーが美味しかったので、そこの店の新たな肉に目を付けた!この肉厚サンドイッチwithワイン蒸しオニオン、激ウマです。生ビールと合わせて、帰りの一杯。ビールを飲んでいる(というか、飲まれている)お爺さんと、その奥さんが、こちらが日本人だと知ると、いろいろ話かけてきてくれて、やはりドイツは親日な国だなと実感。

ちなみに、カイザーストリートにはもっと魅力的なお店がいっぱいあって、今目をつけているのは、このチョコレート屋さん。

昨日、赤ワインを買ってきたのだが、コルク抜きが無く挫折したので、スーパーにコルク抜きを買いに行く事にした。街のスーパーレベルでもビールの揃え、ワインの揃えは極めて充実している。これはビールコーナーの写真。

あと、チーズと肉の揃えも。ブログで紹介したチーズコーナーと、肉コーナーは隣り合っていて、ソーセージやよくわからない肉塊がゴロゴロと並んでいる。生で食べられるかがかなり分からないので、安全なチーズコーナーへ。柏木さんの指令通りハードチーズを買おうとしたが、どれがハードが分からない。直前まで肉を買っていた親切なおっさん(ただ、明らかに既に酔っぱらってる)が、「へえい、チーズが欲しいのかぃ?どんなの食いたいか言ってみな、通訳してやっから」と。「これは有り難い、ハードチーズを所望しておる、よこせ!」と答えると、「ふぉふぉふぉ、おまえさん、もうちょっと美味そうなの、俺が見繕ってやるよ!いいのはこれと、これと、これだな!どれが美味そうだぁ〜?」と。え、、、じゃあ、これで…。「良い買い物したな!ワインを楽しめよっ!」親切な酔っぱらいおじさんは去って行った。Appenzeller classicというチーズとTorten Brieというチーズ。まぁどれも100gで100円か200円レベルなので、気になったら買うという戦略が正しい。

というわけで、ワインコーナーへ。このスーパーのワインコーナーも、はちゃめちゃに安い。どれもだいたい1ボトルで400円くらい。よーし、お父さん、今日は奮発しちゃおうかなっとばかりに、少しお高めなワインに手を出す。1200円。Les Granges des donaines edmond de Rothschild 2008。全然よくわからないのだが、「ラベルのところにHaut-Medocって書いてあるからフランスのオーメドックのやつだろう、そして、きっとロスチャイルド家(Rothschild)が関わってるから美味しそう!」家に帰ってみて開けてびっくり。こいつはかなりイケる。今日買ってきたチーズと合わせて満足であります。

成瀬仁蔵先生の誕生日6月23日にドイツに渡って以来、やっと2週間が経過した。キキの気分そのものだ。「おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。

ドイツ13日目〜小生、ツール集めに奔走する〜

Twitterを見ているとどうやら日本は暑かったらしい。カールスルーエは本日最高気温27度、最低気温17度。朝、登校時はだいたい20度くらいで、湿度もほどよく快適です。

朝御飯は市内で買う時間がなかったので、生協で。ローストビーフとレタスのサンドイッチ!

午前はひたすらメールを打ちは返し、Felixとディスカッションをして終わった。ここKITはヨーロッパ最大の小型魚類のストックセンターだというのは以前にも書いたが、それもあって、ゼブラとメダカにおける技術と人間の流通が非常に良い。マックスプランクと打ち合わせするのも、EMBLやハイデルベルクと打ち合わせするのも、何かしらのコネクションがあり、かなり自由に動く事ができる。アメリカだとこれに相当するのは、よく知らないが、やはりゼブラフィッシュの故郷のオレゴン大なのだろうか?

ふとした瞬間に自分でも笑えてしまうのだが、小さい頃にメダカを飼ったり熱帯魚を飼って遊んでいたのが、何故だか大学院でメダカをやることになり、何故だかリアル「メダカ博士」になってしまい、挙げ句の果てに、日本から遠く離れたドイツという土地でなお、メダカと戯れている。そもそも、ガタイのいいゲルマン民族達が真剣に「めだぁかぁ!」とか言ってるのを冷静に見ると、なんだかとても不思議な気持ちになってしまうのだ。

これまでKITの良いところばかりを書いてきたが、実は不便なところもある。それは「ストックセンター」であるという最大の利点が関与している。(規模が大きい)→(病気に対して非常にセンシティブ)→(ラインの受け渡しが難しい)という問題。成魚の受け渡しはKITのFish houseの中でも完全に別れていて、ブリーチして完全に表在菌を殺した卵でしか持ち込んではいけない。その卵であっても、国外から持ち込む時には、クオリティチェックのための2枚のシートが必要で、ここKITが発行した正式書類が入っていない場合は、送られてきた時点で無惨にサンプルは捨てられる。卵でしか送れないということは、全ての作業が1世代分の3ヶ月遅れるということを意味していて、様々な予定を先読みして立てていく必要が今まで以上に求められる。

というわけで、ここ数日はひたすら3ヶ月後に必要な可能性があるラインを各所から取り寄せるために、メールを一日30通ペースで打ち続けているのだが、この時のお作法も日本と少し違っていて、今日はトラブルを起こしてしまった。少し特殊なラインがほしくて、さらにそのラボに技術習得に行きたかったので、軽くこちらの目的を説明して、「コラボレート(共同研究)したい」と送ったら、これがNG。丁寧なメールのあとに、「申し訳ないが、僕は今直近で君の興味がある研究をできる状況にない」との返答。メールのCcで入っていたFelixが数分後に僕のところにやってきて、「共同研究は良く無い。日本と違うかもしれないけれど、ここでの共同研究は、お互いが責任を持ち合う事で、彼がOKと言うということは、彼も何かの結果を出す事を要求されるということなんだ。ただ、ラインが欲しい、技術をちょっと教えてくれと頼んだら、必ず彼はOKするよ!」と。なるほど、これは日本の真逆。日本ではある一定以上の技術習得や協力を援助してもらうためには、「共同研究」という形を取り、論文も共同でPublishし、ある種GIve&Takeな関係を築く。「共同研究」や「論文」という物に対する、日本とドイツの考え方の差を強く体感した。

今日は昼に、中古自転車を買う約束をしていた。KIT掲示板で良さそうな中古自転車が50ユーロで出ていたから、持ち主に電話をしていたのだ。それが行ってみたらびっくり。自転車がすごく小さい。持ち主の恰幅のいいおじさん(おっさん)が立っていて、「息子用か?それともまさか、ボーイフレンド用か?(意外とドイツはゲイが多い)」と聞いてくる。こんなはずでは…と思っていたら、「まさか、おまえ用か?子供用って書いておいたじゃねーか!おーまいごっ!(写真のjugendfahrrad=youth bicycle)」…。ごめんなさい、ドイツ語読めませんでした。。。「くそ、ここまで持ってくる手間とらせやがって!」おじさん(おっさん)は怒って去っていった。ごめんなさい。

二階食堂にいいメニューがなかったので、今日は一階食堂で、ソーセージ&ポテト。

昼過ぎには、外部からヒトを呼んでのセミナー。ゼブラの行動のヒトで分野が近いこともあって、かなり面白い。というか、正直、少しかぶっている所もあったので、面白いを通り越して、ヒヤヒヤしながら聞いた。この2週間の間に外部から呼ばれてきた研究者のセミナーを3人聞いたが、全員zebrafishでどれもかなり質が高くいいサイエンス。本当に小型魚類の知識や技術をKITに集めようという意識がとても高いのに何度も感心させられる。僕が東大時代に作ろうとしていた、小型魚類を研究するための「システマティックな解析ツール」という概念も、極めて強くKITでは根付いていて、何かをしようと思った時に苦労せずにゴールまで行けるようなルートが何本も確保されているのが素晴らしい。

セミナーで高宮さんに再びお会いしたので、コンストラクト作りの相談に乗ってもらった。本当にいい方で、研究やドイツ生活のことまで様々な事を教えて頂いた。となりのラボのウィルコーも「マサは本当に素晴らしいヒトで…」と何回も繰り返していたが納得する。右も左も分からない僕だったが、右の第一画目を踏み出した気分になれるディスカッションだった。どうにか前に進めそう。

実験に関して、ドイツ人は本当に細かいし、恐ろしく実直。日本人はアメリカ人に比べれば圧倒的に実直型だと思うが、ドイツ人のそれは更に上を行く気がする。日本人を「3段飛ばしで階段を駆け上がり、たまに転んで時間を無駄にする事がある」と例えるならば、ドイツ人は「ただただ、ゆっくり1段ずつ確実に上がって行く」が正しい。無駄なく、ゆっくり、でも確実に。電気泳動一つとっても、ゲルの保存なんてしないそうで、像が汚くなるから、と。

帰り道の途中で、前から目を付けていた店で「ハンバーガーwithオニオン」を買ってきた。ハンバーガーの厚さ3cm!オニオンもワイン蒸しかな?すごく美味しい!夜は食べないつもりだったのだが、つい食べてしまったので、今日はお酒は抜き。